本研究は、抗体医薬の投与による癌治療という、いわゆる受動免疫による治療展開ではなく、能動免疫という観点に立ち、さらには患者個人に最適化した癌免疫療法の確立を目的とする。今年度は、MALTリンパ腫患者の骨髄細胞から単離したリコンビナントFab(AHSArFab)を解析対象とし、本rFabが認識する細胞表面抗原の同定を目的として、ファージディスプレイランダムペプチドライブラリー(PhD-7)を用いたエピトープ解析を行った。PhD-7をAHSArFabに対して4ラウンドのパニングを行った結果、AHSArFab結合ファージタイターは850倍に上昇した。ELISAにてAHSArFab陽性であったクローン27個(30個中)のランダムペプチド部分のシークエンス解析を行なった結果、LSYLEPW(21個)、LSYLEPP(3個)、LSYLEPT(1個)、LSYIEPI(1個)、VSYLEPP(1個)という配列がカッコ内の頻度で得られた。Protein-BLASTによる相同性解析の結果、LSYLEP配列がsphingomyelin phosphodiesterase4(SMPD4)のA_182-A_187とほぼ一致したことから、SMPD4がAHSArFabの認識抗原である可能性が示唆された。最も出現頻度の高かったLSYLEPW配列に基づきリンカー(GGGC)を付加したペプチドを合成しKLHとの複合体を作製した。LSYLEPW-KLHで過免疫したBALB/cマウスより血清および脾臓を採取した。抗血清は、用量依存的にLSYLEPW-KLHに対して反応性を示したが、HeLaS3細胞に対する反応性は弱いものであった。今後は、過免疫マウス脾細胞より抗体遺伝子ライブラリーを構築しHeLaS3反応性クローンを単離する。本クローンおよびAHSArFabを用いた免疫沈降法やサンドイッチELISA法により抗原分子を決定する。また、効率よく液性免疫を誘導できるミモトープペプチド免疫法について検討する。
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