研究概要 |
メタボリックシンドロームの発症から粥状動脈硬化症や非アルコール性脂肪肝(NAFLD)への進展機構を解明するうえで,炎症反応を担うIVA型ホスホリパーゼA_2(PLA_2)がメタボリックシンドロームの進展要因であるHDLの低下および肝での脂肪蓄積に関与する可能性について高脂肪食を投与したIVA型PLA_2欠損マウスを用いて検索した. 1.高脂肪食に伴う粥状動脈硬化巣の形成とHDLの低下へのIVA型PLA_2の関与 高脂肪食を投与した野生型マウス(B6系統)の大動脈基部でのプラーク形成がIVA型PLA_2欠損型(B6系統とのもどし交配20回)では軽減されていることを見出した.さらに,高脂肪食投与下の野生型では血清中のHDLの減少が見られたが,欠損型ではHDLが野生型と同様に減少した群とHDL量が維持されていた群に分かれた.両群の違いは以下の通りである.欠損型ではB6系統のIVA型PLA_2遺伝子の代わりに129系統マウス由来の修飾した遺伝子を有するが,その近傍に存在するアポA-II遺伝子が,前者の群ではB6系統由来で,後者の群では129系統由来であることが判明した.これまでに,B6系統と129系統のアポA-II遺伝子の違いがHDL量の違い(B6系統<129系統)として現れ,B6系統の易動脈硬化症の要因と考えられていた.従って,予想とは異なったが,IVA型PLA_2はHDLの低下とは無関係に病巣の形成に関与している可能性があり,HDLの低下を改善できなくても病巣形成を抑制できることが示された. 2.高脂肪食に伴う肝での脂肪蓄積へのIVA型PLA_2の関与 高脂肪食を投与したマウスでは,野生型で見られた肝細胞での脂肪蓄積に加えて肝線維化もIVA型PLA_2欠損型において軽減されていることを新たに見出した.一方,3T3L1細胞の脂肪細胞への分化過程や脂肪蓄積過程に対してIVA型PLA_2の特異的阻害剤は何ら影響を示さなかった. これらの結果は,高脂肪食に起因するメタボリックシンドロームから粥状動脈硬化症やNAFLDへの進展過程にIVA型PLA_2が何らかの機構を介して関与していること示唆しており,本酵素がこれら一連の疾患における治療標的分子の候補となる可能性が高いことが推察された.
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