研究概要 |
アルツハイマー病(AD)は,アミロイドβ蛋白(Aβ)を構成成分とする老人斑の出現を病理学特徴とする進行性の神経変性疾患で,認知症の主要原因疾患であることが知られている.また,閉経を境に女性では認知障害の発症増加が認められ,女性の孤発性AD発症率は男性より高いことが示されている.しかしながら,閉経後認知障害およびADともに発症機序の詳細は未だ不明であり,著効な治療法・治療薬は見いだされていない.これらの知見を踏まえて,本申請課題では,我々のグループが独自に開発した閉経後疾患モデル動物ならびにADモデル遺伝子改変動物を用いて,AD関連分子の変動と認知障害発現の関連について行動薬理学的ならびに分子薬理学的手法を用いて複合的かっ総合的に解析を行い,認知症発症に関わる分子基盤を解明することを目的とする実験計画を立案した.平成21年度は,前年度に引き続く行動薬理学的解析において,閉経後疾患モデルマウスの認知機能障害(恐怖条件付け学習障害)が,エストロゲンあるいは胎盤抽出液の慢性投与により改善されることを認め,この改善作用が脳海馬CA3領域の神経脱落の軽減による可能性を示した(投稿準備中).培養細胞における閉経後認知障害ならびにADに関わるシグナル分子の発現解析については,培養神経細胞の細胞外に添加したAPが,終末糖化産物受容体(RAGE)への結合を介してp38 MAPKの活性化を惹起し,それに引き続きエンドサイトーシス様の応答によりミトコンドリアへ移送されることを示した.また,この際にRAGEもともに細胞内へ移行すること,すなわち,RAGEが細胞膜Aβ輸送体として機能する可能性を見出した.今後,本Aβ輸送に対するエストロゲンの効果を検討する予定である.
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