研究概要 |
脳組織の恒常性維持や中枢高次機能の発揮は血液を運搬している脳血管機能に依存しているともいえる.本研究課題では脳血管機能の中でも中心的役割を担う血液脳関門に着目し,その脳梗塞後の病態生理学的変化を検討してきた.特に脳毛細血管のタイトジャンクションタンパク質occludinのチロシンリン酸化が血液脳関門の破綻に深く関与していることを明らかにした.本年度はPGE_2受容体のEP1に着目し,脳梗塞後のoccludinのチロシンリン酸化機序解明を試みた.脳組織生存領域は脳梗塞後に減少し,その減少はEP1受容体アンタゴニストSC51089(10μg/kg, i. p.)の投与で有意に抑制された.FITC-albuminの脳内還流により血液脳関門機能を検討した結果,脳梗塞後に増加した血管外へのFITC漏出はSC51089の投与により抑制された. 次に,Ficollとdextranを用いた遠心分離法で単離した脳毛細血管を用い,srcの活性化及びoccludinのチロシンリン酸化を検討した。その結果,脳梗塞後に上昇したsrcの活性化とoccludinチロシンリン酸化はSC51089の投与によって有意に抑制された.これらの結果から,脳梗塞後に惹起される血液脳関門の破綻はチロシンキナーゼsrcの活性化とそれに伴うoccludinチロシンリン酸化が関与し,これらの上流シグナルの一部にEP1受容体が存在すると示唆された. 前年度まで脳梗塞後の脳血管における活性酸素種の産生源としてNADPH oxidaseの役割を示唆してきた.本年度はさらに脳血管外,特にシナプス部位におけるNADPH oxidase subunitの集積を明らかにし,それに伴う脳梗塞後の局所的酸化ストレスの増大が示唆された.
|