本研究は、二本鎖DNAに配列特異的に侵入(ストランドインベージョン)し、立体障害によってRNAポリメラーゼの進行をブロックするアンチジーンPNAの開発を目的としている。二つの環状分子が共有結合を介さず、互いに入れ子状につながった分子は[2]カテナンとよばれるが、PNAと標的DNAとの間でカテナンを形成することが出来れば、共有結合を切断しないかぎり決して解離することのない安定な複合体となるはずである。我々は、ストランドインベージョンとそれに続く分子内反応によってカテナンが形成されるようなPNAオリゴマーの開発を目指して研究を進めている。2分子のPNAオリゴマーをリンカーで直列に連結し、N末端をアミノ基、C末端をホルミル基とし、PNAの環化にシッフ塩基形成が適用できるか検討した。シッフ塩基は水中では容易にアミンとアルデヒドに解離してしまうが、相補的DNAに結合することによって両端のアミノ基とホルミル基が接近すれば水中でも十分安定に存在できるとの仮説のもとにPNAを設計した。昨年度の本基盤研究(C)において、ホモプリン-ホモプリン型およびホモプリン-混合配列型の2種類のPNAオリゴマーのDNA結合を調べ、ホモプリン-混合配列型PNAがDNAと安定な複合体を形成することを見出した。しがし、効率が十分でなく改善が必要であったため、今年度はホモプリン部分を三重らせん形成能をもつホモピリミジンに置換えたPNAについて検討した。オリゴマーの構造は前年度の知見を活かし、ホモピリミジン-混合配列型とした。ホモピリミジン部分は二本鎖DNAにストランドインベージョンで結合することはできるが、ゲル電気泳動の条件ではずれる程度に短くした。合成したPNAオリゴマーの二本鎖DNAへの結合を調べたところ安定な複合体がほぼ定量的に形成されることがわかった。PNAに対するミスマッチを含むDNAとの結合性から、ホモピリミジン部分と混合配列部分の両方で配列を認識していることが確認された。
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