これまで2分子のPNAオリゴマーをPNA-リンカー-PNAの順番で直列に連結し、N末端をアミノ基、C末端をホルミル基とした構造を基本として研究を進めている。前年度までの研究で、一方のPNA部位にはストランドインベージョンでDNAに結合する能力があり、他方のPNAにはそれが無い場合に、標的となる二本鎖DNAと安定な複合体を形成することがわかっている。しかし、ストランドインベージョンできるPNAは配列がホモプリンまたはホモピリミジンに限られるため、現時点では標的にできるDNA配列が制限されている。この配列制限を取り除くには、ストランドインベージョン能を持った混合配列PNAが必要である。PNAオリゴマーは単独ではランダムコイル状であるが、相補的なDNA鎖とハイブリダイズすると右巻きらせんとなる。そこで、混合配列のPNAがDNAの非存在下でも右巻きらせんとなるような修飾を施すことで、コンホメーション変化に伴うエントロピーのロスを小さくすればストランドインベージョンが可能になるのではないかと期待して、今年度はPNA骨格β位に置換基を導入したキラルPNAの開発に軸足を移した。同様の考えから、α位またはγ位に置換基を持ったPNAが既に報告されているが、β位についてはこれまで全く検討されていない。はじめにβ位にメチル基を導入したβ-メチルPNAモノマーを開発し、これを組込んだPNAオリゴマーが単独で右巻きらせんになることを確認した。しかし、右巻きらせんになっただけではDNA結合が改善されないことが判明したため、PNAモノマーの構造を見直し、不斉だけでなく正電荷を合わせ持つ構造にさらに改良した。改良モノマーを組込んだPNAオリゴマーを合成したところ、正電荷を持つにも関わらず従来のPNAより配列選択性が高くなるというデータを得ている。
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