本研究の目的は、二本鎖DNAに配列特異的に侵入(ストランドインベージョン)し、立体障害によってRNAポリメラーゼの進行を阻止するアンチジーン医薬の開発である。遺伝子発現の大部分は転写のレベルで制御されていることを考えれば、特定遺伝子の転写を特異的に制御する分子は遺伝子異常に起因する疾病の治療に理想的な遺伝子治療薬となり得る。転写は開始反応と伸長反応に分けられ、それぞれDNAの転写制御領域とコード領域で行われる。制御領域の塩基配列は複数の遺伝子間で類似している部分が多いので、目的の遺伝子発現のみを抑制するにはコード領域を標的にするのが望ましい。しかし、報告されている転写抑制法のほとんどは開始反応の阻害によるもので伸長反応の抑制は困難とされている。これは転写が伸長の段階に入るとRNAポリメラーゼの進行にともなってDNA二重らせんが巻き戻されるためDNAに結合している分子が引き剥がされてしまうからである。そこで本研究では「アンチジーン分子とDNAとの間でカテナンを形成すれば、その幾何学的制限によって結合が不可逆になる」という作業仮説のもと実用的なアンチジーン分子の開発を目指す。
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