乳癌に罹患するリスクは年齢と共に増加して、九十歳の女性の場合、その年齢までに乳癌に罹患した人の比率は12.5%であり8人に1人は罹患していることになる。これは女性の癌の中では胃癌を越え、現在は1位である。固形癌の代表である乳癌も例外ではなく低酸素応答転写因子であるHIF-1αの機能もって血管新生を行い低酸素の状態でも増殖している。したがって、HIF-1αの機能を制御できれば選択性の高い分子標的乳癌治療薬が誕生できる。さらに、最近は癌にかぎらず、高齢化に伴い増加の傾向である、心疾患、脳血管疾患も低酸素状態が原因で起こる疾患で、これらの疾患もHIF-1α機能抑制剤を利用して治療することが期待できる。このようなことからいわき周辺の土壌から3種類の特殊な分離培地を用いて糸状菌(107種類)を分離し、米をベースとした生産培地(ルー瓶5個)を用いて20日間、25℃で精置培養を行った。生産培地で培養された糸状菌を溶媒抽出して、低酸素条件下でHIF-1αの細胞内蓄積を阻害する活性を指標とし、スクリーニングを行った。その内、活性を示したIMU-0051株を選択し、silica gelカラムchromatographyおよびODS HPLCを行って活性成分を3つ単離した。さらに、3つの成分についてNMRを初めとする各種分析データの解析を行い、各成分はIsochaetochromin類であることを明らかにした。現在、各成分の立体構造に関する解析を行っている。活性および作用機序に関する解析はヒト乳癌由来T47D細胞、ヒト乳癌由来MCF-7細胞およびヒト子宮頸がんHela細胞を用いて解析を行い、すべての細胞において3成分は低酸素条件下でHIF-1αの細胞内蓄積および核内移行を阻害することを明らかにした。しかし、同じ条件下でHIF-1βの細胞内蓄積には阻害活性を示さないことからその活性はHIF-1α選択的であることが明らかとなった。今後は各化合物の細胞内情報伝達に関する作用機序を明らかにし、さらに実験動物を用いたアッセイ系にてin vivoでの作用を検討する。
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