H5N1高病原性烏インフルエンザウイルスがアジアを中心に蔓延し、多くの患者が死亡している。インフルエンザ治療に効果的なオセルタミビルはH5N1鳥インフルエンザ治療にも適用されているが、H5N1が変異を獲得してヒト-ヒト感染による大規模蔓延を起こしたときには薬剤耐性の出現は脅威となる。そこで、このウイルスがヒトに蔓延しないような対策や新規抗ウイルス剤の開発に必要な情報を得ることを目的として、オセルタミビルを投与された高病原性インフルエンザ感染患者の検体からウイルスを分離し、耐性変異を持つウイルスの探索を行い、遺伝学的または生物学的な性状を詳しく解析し、高病原性トリインフルエンザウイルスのオセルタミビル耐性機構を解明することにした。 我々は農林水産省の輸入禁止品輸入許可を得て、2004年より鳥インフルエンザウイルスに感染した患者または動物の検体をベトナムより約1000、インドネシアより約500検体を2008年までに輸入した。東京大学医科学研究所ウイルス感染分野P3実験室において、MDCK細胞または発育鶏卵を使用して、ウイルスの分離を試みたところ、ヒトから採取された検体で、28検体について分離、増殖し、ストックウイルスが作製できた。動物についてはブタやニワトリなど多くの検体からウイルスが分離できたが、現在、分離作業の進行中である。 全分離ウイルスについて、RNAをRT-PCRし、PCR産物をクローニングした後、遺伝子の塩基配列を解析した結果、1株でオセルタミビル耐性変異として知られる、NA遺伝子の117番目がバリンに変異していた。このウイルスは細胞におけるウイルス増殖能を調べた結果、大変増殖性が良いことがわかった。次に薬剤に対する感受性試験としてNA Inhibition assayを行ったところ、IC50が約50nMで、従来知られている耐性株に比較すると弱いが、感受性が低下していることがわかった。現在、マウス及びフェレットにおける病原性を確認するための、コントロール調整など予備実験を進行中である。
|