2003年以降アジアを中心に蔓延したH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスは、今なお多くの地域でヒトへの感染が多発している。インフルエンザ治療に効果的なオセルタミビルはH5N1インフルエンザ治療にも適用されているが、ウイルスが変異を獲得してヒト-ヒト感染による大規模蔓延を起こしたときには薬剤耐性の出現は脅威となる。そこで流行地域における感染患者や周辺動物の検体から直接得たウイルスの解析が重要となる。 一昨年度には1検体からオセルタミビル耐性の変異を持つウイルスを検出したが、昨年度および今年度の検体から薬剤耐性ウイルスは検出されず、本ウイルスにおける薬剤耐性の検出頻度は低いことが予想された。しかし、ヒト-ヒト感染を容易にする可能性のある変異が多くの患者体内で発生していることが分かり、今後もこれらの患者検体中ウイルスの変異をサーベイする必要があることを示唆した。さらに得られたウイルスについて、ヒトのインフルエンザ病原性モデルであるフェレットを使用して、H5N1ウイルスの病原性にはレセプター結合性に関わる変異の他に、NSタンパク質などが関わる例があることも示した。 患者発生の周辺では動物や家畜においてウイルスが蔓延している可能性がある。インドネシアの無症状のブタについて、2005~07年に得られた約700検体から約7.5%でウイルスが分離された。2008~09年の300検体からはウイルスは分離できなかったが、血清中の抗体価を測定し、1%に過去の感染実績を示すものがあることがわかった。なお、分離できたウイルスの中にはヒトで良く増える変異を含むものが多く存在し、ブタが中間宿主となりうるため、今後も監視する必要があることがわかった。 なお、患者発生の折にはインフルエンザウイルスであることを迅速に鑑別する必要がある。市販されている20以上の迅速診断キットでH5N1ウイルスを検出できるか否かを調査し、おおむね検出可能であることを確認した。
|