研究概要 |
【目的】我々は、これまでにマリフラナ(大麻)の三大主成分THC(Tetrahydrocannabinol)、CBD(Cannabidiol)およびCBN(Cannabinol)を主とするカンナビノイドの薬毒理作用の発現機構解明を目的として、生体内代謝を中心に報告してきた。すでに、我々は幻覚作用を示さないCBDが、生体内においてTHCに変換されること、さらに内分泌攪乱化学物質様作用についても一部明らかにしている。また、大麻中のTHCおよびCBDは、古くなるとCBNに変換されることから、生体内においてもCBNおよび同族体に変換されることが予測される。さらに、大麻主成分の構造はステロイド骨格に酷似していることから、生体内代謝においてステロイドホルモンの分泌系に作用し、内分泌攪乱作用を惹起する可能性を有しているが、その詳細は不明である。そこで今回、我々は生体内における大麻成分のTHC⇒CBN、CBD⇒CBNの芳香化を明らかにすると共に、関与するシトクロムP450分子種であるアロマターゼ(CYP19)によるTHC、CBDおよびCBNの代謝について検討したので報告する。【実験方法】《CYP19によるTHC、CBDおよびCBNの代謝》THC、CBDおよびCBN(100μM)は、40pmol Human CYP19(BD Biosciences),1.3mM NADP^+,0.4U/mLG-6-P dehydrogenase,3.3 mM MgCl_2を含む100mMリン酸緩衝液(pH7,4)0.25mL中、37℃で30分間反応した。反応終了後、反応混液を酢酸エチル3mLで抽出、有機層をエバポレートし、TMS化した。なお、TMS化は反応生成物の残渣をCH_3CN15μLに溶解後,BSTFA(N,O-Bis(trimethlsilyl)trifiuoroacetoamide)15μLおよびTMCS(Trichloromethylsilane)5μLを加え、60℃で1時間反応を行った。CH_3CN 100μLに溶解し、10μLをGC/MSに注入し分析した。《GC/MS測定条件》装置:Agilent 6890N GC/JMS-AMSUN200、カラム:HP-5(0.25mm i.d.×30m,膜圧0.25μm)、カラム温度:180-280℃(10℃/minで昇温)、注入口および検出器温度:300℃、イオン化:70eV、キャリア-ガス(流速):He(1mL/min)の条件下測定を行った。【結果・考察】テストステロンおよびアンドロステンジオンのエストロンおよびエストラジオールへの芳香化に関与するCYP19は、主要カンナビノイドによる阻害については一部報告があるものの、マリファナ三大主成分の詳細な代謝についてはこれまでに報告がない。本研究において、THC、CBDおよびCBNのCYP19による代謝を詳細に検討した結果、CBNからmonohydroxy-CBNの生成が今回の条件下、明らかとなった。また、THCおよびCBDの代謝においては、CBNの生成が認められた。このことから、生体内におけるCYP19による芳香化が明確となった。我々は、大麻(マリファナ)主成分が生体内において多くの代謝物を生成することを明らかにしてきたが、内分泌撹乱化学物質様作用についてはこれまでに報告が一部あるものの、その詳細は不明であった。今回、CYP19によるTHCおよびCBDの芳香化が認められたことから、これらカンナビノイドのCYP19による代謝が性ホルモンの合成系に関与することが示唆された。現在、代謝物を含めたマリファナ成分の内分泌撹乱化学物質様作用を明らかにするため、エストロゲン受容体との相互作用を検討中である。
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