研究概要 |
共役トリエン脂肪酸(eleostearic acid, ESA)のアポトーシス誘導メカニズムについて,これまでの研究から,ESAはカスパーゼ非依存性のアポトーシス性細胞死を誘導すること,AIFが細胞死に重要であること,このタイプの細胞死には必修とされるPARP-1分子の活性化が見られないことを明らかにしてきた。そこで,今回は,さらにESAによる細胞死のメカニズムを解明するために,Bcl-2,Bcl-X_Lの過剰発現やMEKやPARP-1のsiRNAによるノックダウン実験を行った。その結果,培養神経細胞PC12細胞にBcl-2,Bcl-X_Lを過剰発現させてもESAによる神経細胞死は抑制されないこと,同様にPARP-1の阻害剤およびsiRNAによるノックダウンでもESAによる神経細胞死(PC12細胞)は抑制されないが,MEKの阻害剤およびsiRNAによるノックダウンではESAによる細胞死を抑制されることが分かった。これまで,カスパーゼ非依存性のアポトーシス性細胞死ではDNAアルキル化剤MNNGのようにDNAに損傷を与え,それが刺激となってPARP-1が活性化され,次にAIFがミトコンドリアから核内に移行して細胞死を誘導すると考えられてきた。しかしながら,ESAによる細胞死ではPARP-1はウェスタンブロットによる解析で活性化された結果の切断型が検出されず,上記の実験結果と合わせてPARP-1も非依存性である,新規の経路で細胞死が進行していることが強く示唆された。MEKの阻害で細胞死が止まることから,MEKを経る経路が重要であることが分かったが,MEK-ERKの下流のシグナルは現在まで特定できていない。今後,検討すべきところである。一方,MEKの他にESAによる細胞死を完全に抑制するものにトコフェロールがある。活性酸素生成などについても詳細に検討したところ,これは,ESA刺激により細胞に,特にミトコンドリアにおいてスーパーオキシドの生成が刺激後4-6時間程度で認められ,トコフェロールがこれを消去できると考えられた。
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