研究概要 |
生活習慣病の要因の一つである血中コレステロールの調節に関与する胆汁酸の消化管取り込みの機序を個体レベルで解析するため、胆汁酸受容体でありコレステロールレベルの調節に関与する核内受容体farnesoid X receptor(Fxr)欠損マウスを用い、胆汁酸とコレステロール(Cho1)投与による回腸胆汁酸吸収トランスポーターのapical sodium-dependent bile salt transporter(ASBT)の発現レベルと胆汁酸吸収能の関係を解析した。野生型マウスではコール酸(CA)投与で回腸ASBT mRNAレベルは低下したがFxr欠損マウスでの低下は認められなかった。しかしながらFxr欠損マウスにCAに加えCho1を併用すると回腸ASBT mRNAレベルは変動しなかったが回腸刷子縁膜ASBTタンパク含量とin situループ法により測定した回腸胆汁酸吸収能の有意な減少が認められた。一方で野生型マウスでは回腸胆汁酸吸収能の変動は認められなかった。以上の事よりFXRに依存しないCho1を介する回腸胆汁酸吸収の抑制機序の存在が明らかとなった。また回腸ASBTのタンパクレベルでの発現変動が回腸胆汁酸吸収の抑制機序の一因である事が示唆された。 一方抗菌薬(アンピシリン)を用いて腸内細菌数を減少させることにより胆汁酸組成を変動させ、その時の回腸ASBT発現についても解析した。マウスに抗菌薬を投与すると消化管管腔内で腸内細菌による代謝により生ずる非抱合型一次胆汁酸のCAや二次胆汁酸のデオキシコール酸(DCA)、タウロデオキシコール酸(TDCA)が顕著に減少した。これに伴い、回腸ASBT mRNAレベルと回腸刷子縁膜ASBTタンパク含量の有意な増加が認められた。抗菌薬投与を中断すると上記胆汁酸(CA,DCA,TDCA)の顕著な増加と回腸ASBT mRNAレベルと回腸刷子縁膜ASBTタンパク含量の減少(コントロールレベルへの回復)が認められた。これらの結果は腸内細菌の代謝により生成される胆汁酸によって回腸ASBT発現が負に調節されている事を示唆している。今後、これらの胆汁酸の投与による回腸ASBT発現変動について、さらに消化管胆汁酸吸収能との関連について解析する予定である。
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