研究概要 |
生活習慣病の要因の一つである血中コレステロールの調節に関与する胆汁酸の消化管取り込みの機序を個体レベルで解析するため、抗菌薬投与時の回腸apical sodium-dependent bile salt transporter(ASBT)発現と消化管胆汁酸吸収について解析した。平成21年度までの研究によりマウスに抗菌薬を投与して腸内細菌を減少させると、消化管管腔内の胆汁酸組成が変動し、その結果回腸ASBT発現レベルが上昇することが示唆された。本年度はASBT発現の調節に関与する腸内細菌による代謝で生成する胆汁酸(腸内細菌代謝型胆汁酸)の同定と、ASBT発現変動により変動する胆汁酸動態について経時的な解析を実施した。抗菌薬のアンピシリン(100mg/kg)投与で増加したASBT発現レベルは腸内細菌代謝型胆汁酸のcholic acid(CA)あるいはtauro-deoxycholic acid(TDCA)との併用によりコントロールレベルまで減少した。アンピシリン投与(3日、7日、14日)の経時的な解析を実施したところ、3日、7日でASBT発現の増加が認められたが、14日では認められなかった。糞中の腸内細菌DNAレベルをRT-PCR法で解析すると、3日、7日で顕著な減少が認められたが14日ではコントロールレベルまで回復した。また消化管管腔内のCA,TDCAレベルも腸内細菌レベルと同様な変動を示した。この時の門脈中胆汁酸濃度はASBT発現と同様な変動を示し、3日、7日投与で増加して、14日でコントロールレベルまで減少した。一方糞中胆汁酸排泄速度はこれとは反対の変動を示し、3日、7日投与で減少し、14日で回復した。これらのことより腸内細菌に依存した消化管管腔内胆汁酸(CAとTDCA)レベルに依存してASBT発現を介して消化管からの胆汁酸吸収能と糞中胆汁酸排泄速度が調節されることが示唆された。さらにアンピシリン長期投与により腸内細菌数の回復が起こり、それに伴い胆汁酸動態も回復することが示唆された。
|