本研究では、抗結核薬リファンピシン(RIF)によるP-糖タンパク質(MDR1)の小腸特異的な誘導機構を明らかにすることを目的とした。平成20年度の検討では、MDR1遺伝子の小腸特異的なRIFによる転写活性化には、pregnane X receptor(PXR)結合領域だけでなくその下流に存在するdistal regulatory cluster内の配列が重要な役割を果たしていることが示唆された。そこで平成21年度は、レポータージーンアッセイによりMDR1遺伝子のdistal regulatory clusterをさらに詳細に解析し、PXR結合領域を含む3つのdirect repeat 4(DR4)配列がRIFによる転写活性化に関与することを明らかにした。さらに、リファンピシンによるMDR1 mRNAの誘導が認められるLS180細胞と認められないHepG2細胞を用いてcDNAサブトラクションを行い、43個の遺伝子を単離した。この中には、肝に発現せずに腸管に発現する転写因子epithelial specific ets factor 3(ESE-3)が含まれていた。 HepG2細胞にESB-3を導入したところ、RIFによるMDR1遺伝子レポーターの転写活性化が認められた。この活性化はESE-3のDNA結合ドメインを欠失させることにより消失した。さらに、MDR1遺伝子レポーターのDR4配列に変異を導入したところ、ESE-3によるMDR1遺伝子レポーターの転写活性化が消失した。このことより、ESE-3によるMDR1遺伝子レポーターの転写活性化は3つのDR4配列を介していることが示唆された。以上より、RIFによるMDR1遺伝子の小腸特異的な転写活性化には、PXRだけでなくESE-3によるDR4配列を介したメカニズムが関与することが示唆された。
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