研究概要 |
肝I/R障害時の薬物腎排泄変動に関与する有機カチオントランスポータ変動とその変動機構について検討を行った。70%肝I/R障害モデルはWistar系雄性ラット9週齢の左葉及び中葉への血流を60分間遮断し再灌流することにより作製した。In vivo腎クリアランス実験は、再灌流12時間後にシメチジンを負荷投与後、維持量を持続投与することで定常状態とした後、大腿動脈及び膀胱からそれぞれ採血、採尿を行い、腎クリアランスを算出した。血漿中、尿中及び腎組織内のシメチジン濃度は高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。抗酸化剤の影響に関する検討では、再灌流5分前に頚静脈よりTrolox^[○!R](2.5mg/kg)を瞬時投与した。 再灌流12時間後におけるI/Rモデルラットの血漿中アルカリホスファターゼ活性は約58倍に上昇し(P<0.001)、肝I/R障害に伴う肝障害が確認されたが、血漿クレアチニン、血中尿素窒素には差が認められなかった。I/Rモデルラットにシメチジン(8mg/kg)を静脈内投与後2時間までの血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は、Shamラットに比べ約1.3倍に増加していた(P<0.001)。一方、全身クリアランスはI/RモデルラットではShamラットの76%まで減少し(P<0.001)、腎クリアランス、腎分泌クリアランスもそれぞれ74.61%まで減少していた(いずれもP<0.01)。また、I/Rラットの腎粗膜画分中におけるrOCT2、rMATE1は共にShamラットの67,61%まで減少していた(各々P<0.01,P<0.01)。抗酸化剤であるTroloxを再灌流前に投与したところ、肝I/R障害後にみられたシメチジンのAUCの増加並びに全身クリアランスの減少は改善され、rOCT2、rMATE1の蛋白発現量の減少も抑制された。 以上より、肝I/R障害時におけるシメチジンの全身クリアランスの減少には、腎近位尿細管に発現するrOCT2、rMATE1の酸化ストレスによる低下の関与が示唆された。本研究成果は、肝I/R障害時におけるカチオン性薬物の腎排泄低下とその機構を示唆する有用な知見と考えられる。
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