本研究の目的は(1)臓器組織と同様な応答を予測できるオンチップ細胞計測技術を用いた薬物の心毒性スクリーニング法を構築すること、ならびに(2)その評価系を毒性試験データが欠如している後発注射薬の安全性と毒性に関する品質試験に応用することである。前年度は催不整脈リスクが高い抗不整脈薬の薬剤応答性をオンチップ細胞計測技術により調べ、そのデータベースを充実されることで薬物の心毒性スクリーニング法としての本法の有用性を示した。また、催不整脈リスクが示唆されている6種類の薬物の先発注射薬と後発注射薬を選び、マウスを用いた亜急性毒性試験と従来法である分散培養細胞を用いた細胞障害性試験を行ったところ、先発注射薬と後発注射薬で異なる結果が示唆されたものが2種類あった。 そこで平成21年度は、異なる結果が示唆された注射薬を精査する目的で、この2種類の薬物の市販されている全ての後発注射薬を対象に、分散培養細胞を用いた細胞障害性試験、マウス用いた急性・慢性毒性試験や心電図試験を行い、細胞レベルと固体・臓器レベルでの薬剤応答性の詳細な解析を試みた。その結果、心筋細胞由来H9c2や血管内皮細胞由来EA.hy926を用いWST-1アッセイにより細胞障害性を検討したところ、前年度の結果とは異なり、塩酸リトドリンとナファモスタットの先発注射薬と全ての後発注射薬間の50%抑制濃度には有意差は認められなかった。さらに塩酸リトドリンについては固体・臓器レベルでの薬剤応答性を調べたところ、先発注射薬と全ての後発注射薬間において、半数致死量、心拍数やQT間隔などの心機能パラメータには有意差は認められなかった。従って平成21年度の研究では、心毒性発現が示唆される注射薬は見当たらなかった。今後もオンチップ細胞計測技術を用いて薬剤応答性を測定・解析するとともに、従来法による試験を行い、それらの結果を関連づけながら心毒性発現の危険性を評価し、後発注射薬の品質に関する情報を整理していく計画である。
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