本研究の目的は(1)オンチップ細胞計測技術を用いた薬物の心毒性評価法の確立と、(2)安全性に問題がある後発注射薬の品質試験への応用である。まず平成20年度には、心臓への副作用リスクが高い抗不整脈薬に関してオンチップ細胞計測技術を用いた解析による心筋拍動細胞集団の薬剤応答性データの充実を図るとともに、心臓への高い副作用リスクが示唆されている先発注射薬の後発注射薬を選び、マウスを用いた亜急性毒性試験と従来法である分散培養細胞を用いた細胞障害性試験を行い、心毒性発現の可能性を探索したところ、2種類の薬物の後発注射薬の中に先発注射薬と異なる試験結果の製品があることが示唆された。次いで平成21年度は、前年度の試験結果を精査する目的で、両薬物の全ての後発注射薬の製品を対象に分散培養細胞を用いた細胞障害性試験、マウスを用いた毒性試験や心電図試験を行い心毒性に関する薬剤応答性の解析を試みたが、平成21年度の研究では、心毒性発現が示唆される後発注射薬の製品は見当たらず、オンチップ細胞集団による薬剤応答性解析を行うまでには至らなかった。 そこで、平成22年度は抗がん剤の後発注射薬の製品を対象に心毒性に関する薬剤応唇性の解析を試みるとともに、催不整脈作用を有する抗不整脈薬の先発注射薬について心電図試験を行い、オンチップ細胞集団の薬剤応答性データとの関連付けを試みた。その結果、後発注射薬の中に心毒性発現が示唆される製品は見当たらなかった。一方、心電図試験の結果、イオンチャネルの違いによりマウスに異なるタイプの徐脈性不整脈が観察されたので、オンチップ細胞集団の心筋拍動リズムの違いから区別できるイオンチャネルの結果と比較することにより、固体と同様な薬剤応答性の予測の可能性について検討したが、両者の間に類似性を認めることはできなかった。これらのことから、毒性試験データが欠如している後発注射薬の安全性に関する品質情報を発信することはできたが、固体と同様な応答を計測できる細胞ベースの心毒性評価法を確立するには、さらに代謝や作用の多面性を考慮する検討を加える必要性があると結論した。
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