糖尿病患者において薬物の体内動態が変化することが報告されており、同じ糖尿病でも1型糖尿病患者と2型糖尿病患者では薬物の体内動態が異なる。本研究では、Streptozotocin(STZ)誘発1型糖尿病モデル(STZマウス)と2型糖尿病モデルTSODマウスを用い、主要なCYPサブファミリーであるCyp3aの発現および活性を比較検討した。 STZマウスおよびTSODマウスにCyp3aの基質であるTriazolamを投与した際の体内動態を比較した結果、1型糖尿病患者にCYP3A基質を経口投与した場合、健常人と比較してクリアランスが高くなるが、2型糖尿病患者では差が無いという臨床報告と一致する結果が得られた。これらのマウスの肝臓および小腸におけるCyp3aの発現量および代謝活性を測定した結果、STZマウスの肝臓におけるCyp3a発現量および代謝活性は、Controlマウスと比較して有意に高い値を示したのに対し、小腸ではほぼ同じ値を示した。一方、TSODマウスの肝臓におけるCyp3a発現量および代謝活性は、対照動物であるTSNOマウスと比較して有意に高い値を示したのに対し、小腸ではいずれも極めて低い値を示した。Cyp3aの発現変動メカニズムを検討した結果、TSODでは高インスリン血症によって小腸におけるCyp3aの発現量が選択的に低下することが示唆された。 以上の結果より、1型糖尿病患者と2型糖尿病患者において薬物の体内動態が異なる一因として、血中インスリン濃度の相違に伴う小腸CYP3Aの発現および活性の差異が関与する可能性が示唆された。
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