研究概要 |
小腸上皮細胞の刷子縁膜での葉酸及び類似薬の取り込みを担うプロトン/葉酸共輸送担体(PCFT)の発現は、小腸上中部に限られ、下部ではほとんど皆無である。この特徴的な発現分布に関与し、また発現変動に関与し得るメカニズムとして、PCFTの発現制御に焦点を当て、小腸に存在する各種転写因子の関与を検討した。ヒトPCFT(hPCFT)の発現が高く、関与する転写因子の発現も高いとみられるCaco-2細胞とhPCFTの発現が低く、関与する転写因子の発現も低いとみられるHEK293細胞用い、ルシフェラーゼアッセイによる解析を行った。その結果、HNF4α関与のhPCFT転写活性が,GATA4が存在しない小腸下部ではC/EBPαにより抑えられており、小腸上部ではGATA4の存在により高いレベルにある可能性が明らかになった。 一方、同じくCaco-2細胞を用いて,葉酸輸送に及ぼすエタノールあるいはフラボノイド類(myricetin等)の影響を検討した。Caco-2細胞をエタノール(5%)含有DMEMで前処理した場合には、葉酸及びmethotrexate(MTX)の取り込みに対する影響はなかったが、myricetin 100μM含有緩衝液での前処理で、葉酸及びMTXの取り込みが有意に低下し、葉酸類の取り込みに働くPCFTに対する活性低下作用が示唆された。myricetinは、取り込み試験液に添加した検討によりPCFTに対する直接的な阻害作用も示唆された。さらに、glucose transporterを介するglucose取り込みは影響を受けなかったことから、フラボノイド類の作用はPCFTに特異的と考えられた。今後、葉酸類の吸収低下の問題については、エタノールよりもフラボノイド類の影響に注目する必要があると考えられる。
|