胆汁酸の新規代謝物であるグルタチオン(GSH)抱合体の代謝、排泄、生成経路の解明、さらにはN-アセチルシステイン(NAC)抱合型胆汁酸のプロドラッグとしての評価を目的として、本年度は以下の研究を行った。初めに、各種肝胆道疾患患者より採取した胆汁中GSH抱合型胆汁酸をLC-MSにより精査し、先天性胆道拡張症患児と非症候性小葉間胆管減少症患児の胆汁中にケノデオキシコール酸とリトコール酸がGSH抱合体として排出されていることを明らかにした。引き続き、GSH抱合型胆汁酸の硫酸抱合による代謝排泄経路の存在を実証すべく、標品として不可欠な3位硫酸抱合体を化学合成するとともに、LC-MSによる高感度測定法を構築し、本法によってGSH抱合型胆汁酸がラット肝サイトゾールにおいて硫酸抱合を受けるもののカルボキシルエステラーゼの作用によりチオエステル結合が速やかに加水分解を受け、大部分は遊離型胆汁酸とその3位硫酸抱合体に変換されることを明らかにした。さらに、胆汁酸代謝活性中間体の反応性を、コール酸CoAチオエステルと重水素標識コール酸アシルアデニレートの1:1混合物を基質として用いるイオンクラスター法により精査し、前者はGSHやNACとのチオール基、一方、後者はグリシンやタウリンのアミノ基との反応性に富むことを明らかにした。これらの結果はGSH抱合型胆汁酸の代謝と生成機構を解明する上で有用な知見となる。また、NAC抱合型ウルソデオキシコール酸(UDCA-NAC)のプロドラッグとしての有用性を明らかにすべく、アセトアミノフェン誘発肝障害モデルラットにおける肝障害マーカー酵素の変動に検討を加え、UDCA-NACがマーカー酵素の上昇を有意に抑制することを明らかにした。今回得られた知見はUDCA-NACが肝機能改善薬として有用なことを示すものである。
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