研究概要 |
本研究は,肩関節周囲筋の肉眼解剖学的な検索を進め,従来の解剖学に新たな知見を加えることを目的としておこなうと同時に,臨床家とくに肩を専門とする整形外科医の手術の改良,開発,また診断に寄与することを目指している.2009年度は,それまでおこなってきた肩関節の腱板筋の層構造ならびに関節内靭帯としての関節上腕靭帯の形態について,解剖・調査を継続した. 棘下筋の層構造について行った神経支配の詳細な分布をもとに,これを小円筋にも広げ,その構造が停止部で2つに分かれて広がっていることを明らかにした.そして,その上部筋束が関節包と密接な関係にあることも明らかにした.これによって,腱板筋全体の筋の層構造と神経分布についての調査を行うことができたので,現在これらのデータをまとめているところである.腱板筋とくに棘下筋の層構造は,腱板断裂時のdelaminationの形成との関係から重要と考えられたが,実際の断裂肩を用いた組織学的な検索などをおこなううちに,この層間分離は,これまで理解されてきたような腱内の分離ではなく,密着する関節包との関係が深いということを示唆するデータが多く得られた.これらについては,診断や手術法に多くの影響があることから,慎重に継続的に明らかにしていくことにしている. 関節内の上・中・下関節上腕靭帯の組織学的検索をおこない,烏口上腕靭帯と上関節上腕靭帯が一体化し,連続的で分離できないものであることを明らかにした.これにより,肩甲下筋と棘上筋との間の領域である腱板疎部と呼ばれる領域の手術における解剖学的所見をまとめて総説や著書の形で発表予定である.
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