本研究においては、中枢神経系の中でもより複雑な構造と高次な機能を有する前脳の形態形成に着目し、その分子機構の解明を目指した。特にこの過程において重要なソニックヘッジホッグ(Shh)を中心に調べた。コンベンショナルなノックアウトマウスでは初期から腹側半分が形成されず、従ってまた重要なShhの供給源である床板も形成されないため、比較的単純な形態を有する前脳胞形成後の形の変化の仕組みを調べることができない。そこで我々は、コンディショナルノックアウトマウスを利用して、前脳胞形成以後のShh等シグナルの役割の解明を目指した。この脳胞の後半部はのちに視床を含む間脳となる。この部位においては多くの異なる機能を担う神経核が形成されるが、その運命決定機構は不明である。Shhシグナルを細胞内に伝えるSmo遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスを作成したところ、間脳全体が低形成となった。また間脳内の領域マーカーの発現を調べたところ、いくつかについては発現が低下したり、発現境界が不明瞭になっていた(胎生12日)。これ以降、細胞死が進むため、各神経核が完成するかどうかは不明である。(2)眼原基は間脳の一部が突出してでき始める。遠位端が眼球網膜等を形成し、近位部は視神経・視索となる。また網膜中でも背腹軸等に沿った領域化が見られる。眼杯形成期において、Shhは間脳腹側正中部に発現しており、ここから分泌されたSHHタンパクが眼胞・眼杯へ到達すると考えられた。コンディショナルノックアウトマウスにおいては、近位部におけるマーカー遺伝子発現低下、眼胞腹側におけるマーカー遺伝子発現の低下とそれに続く細胞死によって、眼杯腹側部が形成されない。一方、眼胞背側部ではBmp4の発現が上昇し、発現範囲も腹側部へと拡大していた。細胞死はこのBmp4の過剰発現によるものと推測された。Bmp4発現が、腹側正中部からのShhシグナルによってどのように制御されているかは未解決の興味深い問題である。
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