研究概要 |
本研究では,脊椎動物の軸骨格の部域特異的形成,とくに肋骨が胸部特異的に形成される機構についてニワトリ胚を用いて行う.我々は2005年に肋骨がその原基である体節から発生するためには表皮外胚葉の存在が必須であることを示した.2008年度には,肋骨胸骨部の形成が四肢形成と競争的関係にあることを示し,進化における肋骨の部域化が四肢形成の影響によるものではないかという仮説を提唱した.2009年度には,各部域の椎骨において肋骨との相同部位を同定することにより,部域間で比較すべき対象を明らかにした.本年度は,(1)表皮外胚葉と体節との相互作用を阻害した場合に見られる組織形成,(2)表皮外胚葉から分泌されるWnt分子群,体節側で発現されるfrizzled分子群の分布と機能解析を計画した.(1)については阻害実験系を確立し継時的に観察を始めたところである.(2)については,表皮からの分泌物としてWnt6を,体節側の受容体としてFzd1,2,7を候補とした.現在,Wnt6,Fzd7をクローニングし,それぞれの空間的時間的発現パターンの変化について記載を開始した. 一方,骨格の部域特異的形態形成能が,骨原基自身に内在するものかは明らかではない.体節についてはそれが将来形成するべき形態が決定されているが,体節からは四肢や体壁の筋も発生する.我々は先にウズラ-ニワトリキメラ胚作成により腹壁筋の大部分が,胸部/腰仙部境界にある1体節に由来することを示した.今年度,ニワトリ胚の1体節を蛍光色素標識することにより,この体節が筋や骨格を形成するまで継時的に追跡した.その結果,腹壁を構成する筋は胸部/腰仙部境界の1体節が移動して形成されること,腰仙部体節細胞は椎骨とその周囲の筋を形成する他は後肢に移動して行くことが明らかになった.腰仙部体節細胞は肋骨のみならず腹壁筋も形成しない.すなわち,胸部体節と腰仙部体節との違いは体壁への移動能の有無であることを示唆している.
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