研究概要 |
成熟マウスの内耳ラセン器構成細胞におけるFABP分子種の発現局在を免疫組織化学的に精査した。内耳の蝸牛管ではH-FABPが内外柱細胞と外指節細胞に発現し、B-FABPが境界細胞とヘンセン細胞およびラセン板縁とラセン隆起の線維芽細胞に発現局在した。これらは全て支持細胞の一種であるが、内外の有毛細胞はいずれのFABPをも発現しなかった。内耳の支持細胞がいくつかの生理活性分子を発現することは最近報告されている。ある種のチャンネルに加えてシクロオキシゲナーゼがヘンセン・ダイテルス細胞に、プロスタノイド受容体が指節細胞とヘンセン細胞とラセン靭帯線維芽細胞に発現することが報告され、これらは細胞内や膜の脂肪酸を含む脂肪代謝関連分子と関係が深い。また、内耳の支持細胞は非哺乳類では有毛細胞の幹細胞であることが最近報告され、内耳でのB-FABP遺伝子発現がCOUP-TF1転写因子で制御されることも報告されている。哺乳類脳ではB-FABPがグリア細胞に発現し、海馬ではニューロンとグリアの幹細胞とみなされるラジアルグリアにB-FABPが発現することも知られている。よって、今回明らかにされた内耳支持細胞にB-,H-のFABPが発現することは、脂肪酸を含めた細胞内脂肪環境が聴覚受容の有毛細胞の機能に影響を与える可能性を充分に示唆する。しかし、本研究で予備的にB-,H-FABP遺伝子ノックアウトマウスでの型の如くの聴覚テストでは未だ明確な異常は検出されなかった。今後は検出条件と刺激条件を種々変えて何らかの聴覚障害の有無を調べる予定である。加えて、リンパ節ではB-FABPが網状細胞に局在すること、そして、この遺伝子欠損マウスではCD4細胞の構成割合が野生型に比して有意に大きいことを明らかにした。この所見から、B-FABPが網状細胞を介してT細胞のホメオスターシスの維持に関与することが示唆された。
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