マウス顎下腺の導管系は著しい性差をもち、各種増殖因子の産生で知られる顆粒性導管(GCT)は雄でのみ発達する。雌マウスや精巣切除マウスへのアンドロゲン投与により、線条部導管細胞がGCT細胞に分化する。顎下腺導管分化におけるアンドロゲン作用の分子メカニズムは明らかでない。Cyclic AMP response element-binding protein(CREB)は、さまざまなシグナル伝達系の下流でリン酸化により活性化して転写因子として働く。雌雄のマウス顎下腺導管系における転写因子CREBとリン酸化CREB(pCREB)の発現と局在、また雌および精巣切除雄へのアンドロゲン投与による顆粒性導管(GCT)の分化におけるその変化を、免疫組織化学とWesternプロット法により調べた。CREBおよびpCREBの免疫反応は雌で雄より有意に高く、介在部導管と線条部導管の一部の細胞の核に局在し、GCT細胞には存在しなかった。雄で精巣切除を行うと顎下腺のCREBが増加し、これにテストステロンやDHTを連続投与すると減少した。このとき、線条部導管から分化したGCT細胞においてCREBが消失した。これに対して、CREBのmRNA発現量は、雌雄間およびテストステロン投与の前後で変化がなかった。雌および精巣切除雄にテストステロンを1回投与すると、30分以内に線条部導管にpCREBおよびCREB免疫陽性の核をもつ細胞が増加し、24時間までにこれらの細胞がGCT細胞に分化すると免疫反応は消失した。この結果から、アンドロゲンによるマウス顎下腺導管系細胞の分化において、CREBの一過性の活性化と増加がまずおこり、続いてCREBの消失が見られることがわかった。このCREBの消失は転写レベルではなく転写後レベルの調節の可能性がある。
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