マウス顎下腺の導管系は著しい性差をもち、各種増殖因子の産生で知られる顆粒性導管(GCT)は雄でのみ発達する。受容体型蛋白質チロシンフォスファターゼβ(RPTPβ)は、中枢神経系においてニューロンの伸張等に関与するとされる蛋白質であり、長、短2種類の膜貫通受容体蛋白質および長、短2種類の分泌蛋白質の計4つの亜型をもつ。受容体型のRPTPβに対するリガンドとしていくつかの接着分子のほか、増殖因子のプレイオトロピンなどが知られ、受容体に結合することによりフォスファターゼ活性を抑制する。今回我々がマウス顎下腺におけるRPTPβファミリーのmRNA発現をRT-PCR法で解析したところ、4つの亜型のうち短鎖の受容体型(RPTP-S)が主に検出され、その発現量は雌よりも雄で約2.5倍高く、雌へのテストステロン投与で増加した。RPTPβの細胞質ドメインに対するラット抗体を作成し、Westernブロット法でマウス顎下腺を解析したところ、200KDaの大きさの単一バンドが得られ、やはり雌よりも雄で発現が高かった。免疫組織化学により、RPTPは雄では介在部導管のみに強く局在して顆粒性導管では全く陰性であったが、雌では介在部導管と線条部導管に広く弱く分布した。次にRPTPβファミリーのリガンドとして知られるいくつかの分子の顎下腺におけるmRNA発現をRT-PCR法で調べたところ、プレイオトロピンのみが検出され、雄雌で発現量の差は見られなかった。免疫組織化学では、プレイオトロピンはRPTPβとほぼ同じ分布を示した。これらの結果から、マウス顎下腺の導管系においてプレイオトロピンが自己分泌、傍分泌的にRPTP-Sに作用し、雄の顆粒性導管の分化を始めとする性差の形成と維持に関与している可能性が示唆された(論文執筆中)。
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