過労を引き起こす持続的かつ複合的ストレス(過労ストレス)により下垂体細胞に生じる変化として、ラット過労モデルの(1)中間葉メラノトロフと(2)前葉ソマトトロフの細胞変性の分子メカニズムについて解析を行った。 (1)中間葉メラノトロフは、過労ストレスによりその分泌ホルモン、α-MSHの分泌が持続的に亢進し、やがて一部の細胞が細胞死に陥る。この細胞死のメカニズムにはC/EBP homologous protein (CHOP/GADD153)が深く関与することを明らかにした。過労ストレスを与えたCHOPノックアウトマウスの解析を行い、この分子の有無により小胞体およびゴルジ体の形態変化が強く影響を受けることを見いだした。さらにこのような細胞内小器官の形態変化は、ラットのメラノトロフに起こる細胞死の進行や回避と密接に関連するものと推察された。これらの成果は、CHOP分子の未知の機能を明らかにする端緒となるものと期待される。 (2)成長ホルモンを分泌する前葉のソマトトロフは、過労ストレスにより細胞増殖が極度に抑制されることを報告した。ソマトトロフは過労ストレスにより、視床下部からの細胞増殖刺激に対する反応性を失っていることを明らかにした。この内容については学会発表を行い、論文投稿を準備中である。 本研究を通じて、疲労ストレスによって複数の細胞種の下垂体細胞に、細胞機能の異常が生じることを明らかにした。下垂体はホルモンの分泌を介して多くの末梢器官の機能維持に関わっているが、同時に上位中枢である脳機能の変化を鋭敏に反映する。疲労ストレスが神経、内分泌および免疫系に与える影響と、それらが疲労に起因する疾患の成り立ちにどのように結びついてゆくのかを知るうえでも、下垂体細胞の機能解析が重要な意味をもつことを示した。
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