分枝形態形成は上皮細胞集塊の基底部でのクレフト(cleft)形成に始まる集団としての細胞運動で、唾液腺、膵臓など多くの外分泌腺組織に共通の組織形成様式である。この過程でのそれぞれの細胞の移動や形態の変化を明らかにする目的で、細胞膜非透過性の蛍光トレーサーを添加した条件で胎生期マウス顎下腺を器官培養し、それを丸ごと共焦点レーザー顕微鏡で経時的に観察する手法(Extracellular polar-tracer time-laps imaging法)を開発し、実際に細胞動態をとらえることに成功している。本年度はこのシステムを駆使して唾液腺上皮組織の組織形成に関わる細胞骨格の役割を、アクチン線維の形成やその調節機構に注目して調査した。 アクチン線維の重合・脱重合の阻害剤(サイトカラシンD・Latrunculin A・Jasplakinolide)、ミオシンやその調節系の阻害剤(ブレビスタチン・カリキュリンA・Y27632)を培養唾液腺原基に投与したところ、これらはいずれも唾液腺上皮組織の形態形成を強力に阻害した。このうち、ミオシンに焦点を絞り、特異的阻害剤(ブレビスタチン)添加の際の細胞動態を解析したところ、ブレビスタチンが個々の上皮細胞の運動を阻害するものの、クレフト形成には直接関与せず、両者が異なった機構で調節されていることが示唆された。クレフト形成、細胞運動のそれぞれを司る分子とそれを調節するシグナル系の詳細の解明は、今後の課題として残された。
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