アポトーシスにおける核の凝縮は、形態学的にも研究者によって統一的な見解が得られていなかった。それはこれまで核の凝縮の同調性が悪く、また同一の核を追跡してその形態学的変化を捉えた研究が皆無であったからである。 我々は、これまでにcell-freeアポトーシスの手法と微速度映画を用いて、アポトーシスにおける核の凝縮過程がリング形成、ネックレス、最終の3ステップをたどることを発見し、そのうち2~3分で生じるリング構造を引き起こす因子(リング形成因子)が、アポトーシス細胞の抽出物からヘパリンアガロースによるアフィニティーカラムによって高濃度に精製できることを見出している。この因子をヒト白血病細胞Jurkatから部分精製し、分子量30K~50Kの分画に強い活性があることを明らかにした。このことは、リング形成がある種のイオンや低分子によるアーティファクトであることを完全に否定する結果でもある。また、この活性によって核蛋白のリン酸化が起きることは確かめたが、p38並びにJNKキナーゼに対する阻害剤で、cell-freeの核凝縮はまったく阻害できなかった。両酵素以外のキナーゼが働いていると考えられる。22年度は硫安30~50%分画にリング誘導活性があることを見出したが、同定には至っていない。また今年度は、リングが誘導される過程を微速度映画で撮影することに成功した。これまでリング形成過程は極めて迅速でその途中状態を捉えることに成功していなかったが、温度を25℃または30℃に下げることで進行速度を落とし、初めて撮影に成功することができた。その解析結果からリングの空洞部分は徐々に拡大していくのではなく、核全体が同調的に薄くなっていくことが分かった。
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