本研究では、“クラスII型PI3キナーゼC2α"の機能、特に血管恒常性における役割を明らかにするために、当研究グループが作製したC2α遺伝子ノックアウト(KO)マウスを用いてC2αの生理機能と血管障害における役割を細胞・分子レベルで解析することを目的として実施した。平成20年度に行ったC2αKOマウスの表現型解析から明らかになったことは、a. 胎生E9.5〜E11.5で致死、b. 初期の内皮細胞増殖、初期管腔(原始血管叢)形成、胎盤形成、造血能は正常、c. 血管壁への壁細胞(血管平滑筋細胞及びペリサイト)の集積の完全欠失、d. 神経管における血管新生(発芽機序による)の欠失、e. 内皮細胞間接着の低下、等が観察された。これらのことから、C2αKOマウスの胎生期血管形成プロセスの異常は血管新生、特に血管成熟過程に起因する可能性が高いと考えられた。また、C2αヘテロKOマウスを用いたアンジオテンシンII慢性投与による血管障害モデルでは、心臓の冠動脈において血管周囲繊維化及び新生内膜肥厚が、また大動脈においては解離性大動脈瘤が高頻度に観察された。C2αはこれまで全く生理機能が知られてなく、クラスI型PI3キナーゼとは異なる基質特異性、細胞内分布を示すことから、血管恒常性維持に必須の新たな機能的役割を持つ細胞内制御因子であり、多くの血管病(動脈硬化、血管閉塞、動脈瘤、高血圧等)共通の鍵となる分子である可能性が大きい。C2αの発現、活性を特異的に調節できる薬剤・手法の開発はこれら血管病の有益な治療法となりうることを示唆している。
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