近年、先進国において「メタボリック・シンドローム」の問題は大きな関心を集めている。癌、心臓病、脳卒中は我が国における3大死因であるが、その内、心臓病と脳卒中の多くは血管機能の恒常性破綻が原因とも考えられ、「血管病」と捉えることができる。本研究では、"クラスII型PI3キナーゼC2α"の血管恒常性における役割を明らかにするために、当研究グループが作製したC2α K0マウスを用いてC2αの生理機能と血管障害における役割を細胞・分子レベルで解析することを目的とした。本年度は、C2αK0マウスにおける血管障害の発生機序を明らかにするために、アンジオテンシンII(AngII)慢性投与モデルを用いて詳細な病態生理解析を行い、以下の事項を明らかにした。 1)AngIIを慢性投与したところ、約48%のヘテロK0マウスにおいて大動脈瘤の形成が認められ、約30%で大動脈瘤の破裂による出血死した。 2)大動脈瘤の多くは、偽腔を伴う解離性大動脈瘤であり、Mac3陽性マクロファージが血管外膜へ動員され、炎症が惹起されていた。 3)AngII投与により動脈壁のタンパク質分解酵素Matrix Metalloproteinase(MMP)酵素活性が野生型マウスと比較して、顕著に増強されていた。 4)更に、ヘテロK0マウスにおいて、VE-cadherinからなる内皮細胞間接着構造の異常がみられ、これを裏付けるように血管透過性が野生型と比較して有意に亢進していた。 以上の結果から、C2α発現低下は、血管内皮細胞の機能異常、特に血管透過性亢進、炎症反応の惹起、しいては血管構造の破綻を招くことになり、動脈瘤、動脈硬化、浮腫等多くの血管病発症に関与する可能性が高いことが示された。
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