本研究は、傍細胞輸送がどのような駆動力で維持されるのか、またいかなる細胞内信号で制御されるかを明らかにするため、摘出血管灌流ラット顎下腺を用い実験した。傍細胞輸送の駆動力に静水圧が寄与するか否かを細胞内信号を変え検討した。摘出血管灌流ラット顎下腺を用い、灌流動脈圧を測定しながら、灌流流速を変化させ、水分泌速度、蛍光マーカー(Lucifer Yellow)の分泌を測定した。細胞内Ca濃度を増加させるカルバコール刺激下で、1)灌流流速を変化させ、毛細管床の静水圧を上昇させた場合、蛍光色素分泌速度が静水圧に比例して増加した。2)高静水圧では水分分泌は比例して増加しなかったが、低圧側の測定では水分泌速度と静水圧は比例し、高圧では水がリークする可能性が示された。即ち、唾液水分分泌のうち大部分を占める傍細胞輸送はa)灌流圧が駆動力になり溶媒が起動することにより起こる。b)溶媒移動に牽引され水と溶質が移動すると結論された。一方、細胞内cAMP濃度を上昇させタンパク分泌を誘発させるイソプロテレノール刺激では、3)水分分泌は殆ど誘発されなかったが、灌流速度の増加によりわずかな水分分泌が観察された。4)灌流腺を共焦点レーザ顕微鏡ステージにおき、蛍光マーカー(ローダミンデキストラン)を灌流し高速でスライスし、1秒の時間間隔で細胞間隙と分泌細管の3次元像を再構成した結果、蛍光マーカーがイソプロテレノール刺激によりタイト結合を越えて分泌細管に入ることが明確になった。これらの結果、c)細胞内のCa濃度及びcAMP濃度の増加により、タイト結合の開放により、傍細胞水輸送が可能になり、静水圧が一部駆動力として水分輸送を起こしている。d)細胞内のCa濃度上昇では、静水圧増加に加えて別の水輸送駆動力が働いていると結論できた。
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