本研究の目的は、1)視床下部背内側核に存在するオレキシン含有ニューロンが体温調節に関与しているか否かを明らかにし、2)関与しているならばどの様に役立っているのかを明らかにする事であった。 オレキシン欠損マウス、オレキシン含有ニューロン特異的破壊マウス、ならびにそれらの対照マウスを用い、1)直腸への体温計挿入操作によるストレス、2)低温または高温環境への暴露、3)発熱物質投与、の3種類の実験を行った。実験2・3ではテレメトリー装置を埋め込んだマウスを用い、また実験3では無麻酔脳室内投与と麻酔下脳内局所投与の双方を実施した。 刺激前体温には3群間で差がなかったので、オレキシンは基礎体温の維持には関与していないと考えられた。高温暴露でも3群間に体温の差は見られなかったが、handlingストレス・発熱物質投与では、オレキシン含有ニューロン特異的破壊マウスにおいて体温上昇反応が減弱していた。低温暴露では発熱による体温維持が出来なかった。いずれの刺激でもオレキシン欠損マウスの反応は正常であった事と、オレキシン含有ニューロンにはオレキシン以外にも神経伝達物質候補が含まれている事から、オレキシン以外の神経伝達物質候補(グルタミン酸など)がストレス・炎症発熱・低温暴露時の体温上昇・維持に重要な役割を果たしていると推測された。 今後は、上記の生理学的観察結果の裏付けを取るために、解剖学的および生化学的データを補強する予定である。
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