研究概要 |
研究期間全体のworking hypothesis"1Gと異なる重力環境下では,前庭-血圧反射の可塑性が起こり,起立性低血圧を引き起こす"を証明するため,本年度は以下の研究を行った。 ・3G環境下飼育により引き起こされる前庭-血圧反射の可塑性が,前庭を電気刺激することにより代償できるかどうかを調べた。3Gでラットを2週間飼育すると,前庭-血圧反射の調節力は,23±1mmHgから12±1mmHgに低下するが,3G環境下飼育中に前庭電気刺激することにより20±1mmHgに回復した。従って,異なる重力環境により引き起こされる前庭-血圧反射の調節力低下は,前庭電気刺激により回復することが分かった。 ・3G環境下でラットを飼育2週間飼育し,行動量,摂食量,体重,脳内Fos発現量を調べた。3G環境下では立ち上がり行動はほぼ0になり,水平方向の運動も20%程度に抑制された。また,摂食量と体重増加も有意に抑制された。これらの抑制は,前庭系を破壊することにより改善することから,前庭系を介して引き起こされたことが分かった。また,3G負荷により,前庭神経核,孤束核,最後野,第3脳室室傍核にFosが発現するが,これらの発現も前庭破壊により有意に抑制された。 以上の結果から,過重力負荷では行動量が減少し,日常の活動に伴うphasicな前庭系への入力が減少し,use-dependentな可塑性が引き起こされる。この可塑性は,前庭電気刺激により予防されることが証明され,宇宙での微小重力環境下でも同様な現象が起こる可能性があり,宇宙から帰還後の起立耐性低下の予防として,前庭電気刺激の有用性が示唆された。
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