研究概要 |
過重力環境では,前庭系は定常的に大きな入力に曝されることになる。また,過重力環境では体重が重力倍になり,活動が減少する。従って,過重力環境で起こる前庭系の可塑性の原因として,以下の2つを考える必要がある。1)定常的に大きな入力に曝されることにより,受容器レベルでdownregulationが起こる;2)体動に伴うphasicな前庭系への入力が減少し,use-dependent deteriorationが起こる。後者の可能性を調べるため,1G環境下で体動を制限して飼育することにより,過重力環境下と同じ様な前庭-血圧反射の可塑性が起こるかどうかを調べた。頭部に3軸の加速度センサーを装着して頭部の動き、即さ前庭系へのphasicな入力を測定すると,3Gの過重力環境下ではphasicな力が1G環境下の13%(過重力1日目)まで減少し,過重力14日目でも25%に減少した。また,立ち上がり回数も1G環境下での400~500回/日から,ほぼ0にまで減少した。この状態を模擬するため,屋根を低くして立ち上がりができないような環境で2週間ラットを飼育し(Roof群),前庭-血圧反射を比較した。前庭-血圧反射は,前一後,左-右の直線加速(2G)に対する昇圧応答の大きさで評価した。1口G群では,前方加速により27±1mmHg,後方加速により18±1mmHg,左方加速により25±1mmHg,右方加速により24±1mmHgの昇圧応答が見られた。これらの昇圧応答はRoof群および3口G群では有意に抑制された。一方,前庭系を介さない昇圧応答(air-jet)は3群間で差はなかった。以上の結果より以下の3点が明らかになった。1)過重力環境下では,日常の立ち上がり回数が抑制され,前庭へのPhasicな入力が減少する。2)過重力環境で2週間飼育することにより,前庭一血圧反射の調節力が低下する。3)屋根を低くした環境で立ち上がりを抑制して2週間飼育すると,過重力環境でみられたと同様の前庭一血圧反射の調節力低下が引き起こされる。
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