末梢の満腹物質であるCCKは一回の摂食量を規定している。このCCKの情報を延髄のPrRP産生ニューロンが伝達している。PrRP産生ニューロンの下流について、(1)CCKあるいはPrRPを投与すると視床下部のオキシトシン産生ニューロンが活性化すること、(2)オキシトシン受容体遺伝子欠損動物も一回摂食量が増加していることから、CCKはPrRP産生ニューロン、そしてオキシトシン産生ニューロンを介して一回摂食量を規定している可能性がある。そこで、CCKによるオキシトシン産生ニューロンの活性化がPrRP遺伝子欠損動物で抑制されているかどうかを検討した。その結果、CCKを腹腔内に投与して観察される血中オキシトシン濃度の上昇反応が、PrRP遺伝子欠損動物において野生型動物と比較し有意に減弱していた。このデータは、CCKはPrRP産生ニューロンを介してオキシトシン産生ニューロンを活性化しているという考えに合うものである。次に、オキシトシンの社会行動における働きを明らかにする実験を行った。セクレチンをオキシトシン産生ニューロンの細胞体を含む視索上核スライス標本に作用させるとオキシトシン放出が観察された。このデータは、セクレチンは樹状突起/細胞体からのオキシトシン放出を促進することを示唆している。この視床下部でオキシトシン放出を促進するセクレチンを投与することにより、細胞外オキシトシン濃度が上昇するかどうか、さらに、セクレチンによる社会行動促進作用がオキシトシン受容体アンタゴニストを投与することにより阻害されるかどうかを検討した。セクレチン投与により細胞外液中のオキシトシンの濃度が上昇した。さらに、セクレチン投与による社会記憶促進効果は、オキシトシン受容体阻害薬を投与することで減弱した。これらのデータは、視床下部において放出されたオキシトシンが社会記憶を促進している可能性を示唆している。
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