本研究の最終的な目的は、腎障害進行メカニズムにおけるミネラロコルチコイド受容体の役割を解明し、ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬が腎症進展に対する新たなる治療となりうるかについて検討することである。実験は2型糖尿病性腎症を呈するOLETFラットを使用して、選択的ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬であるエプレレノンを経口投与し、糖尿病性腎症に頻用されているアンジオテンシンII受容体拮抗薬であるテルミサルタンの作用との比較、あるいは両剤使用による相乗効果についての検討を行った。その結果、エプレレノンの単独、あるいはテルミサルタンの併用による強い糸球体上皮細胞保護効果を伴う抗蛋白尿効果が証明された。一方、培養腎臓細胞におけるアルドステロンのミネラロコルチコイド受容体を介した酸化ストレスと細胞形態変化についても並行して検討を重ねた。その結果、アルドステロンは培養糸球体メサンギウム細胞や近位尿細管細胞などにおいてNADPHオキシダーゼの活性化を伴って活性酸素を発生させ、MAPキナーゼを活性化させて細胞障害を生じるが、このようなアルドステロンの作用はすべてエプレレノンで抑制されることを証明した。これらの結果より、アルドステロンは腎臓局所のミネラロコルチコイド受容体に結合し、酸化ストレスやMAPキナーゼの活性化を介して腎臓の障害に関与していると考えられた。さらに、アルドステロンのみではなく、グルココルチコイドホルモンもミネラロコルチコイド受容体に結合し、同様の腎障害を示すことも合わせて実験的に証明した。合わせて、高血糖のような状態が直接ミネラロコルチコイド受容体を活性化することも明らかにした。このように、本研究によって、アルドステロン産生が上昇していないような病態においても、ミネラロコルチコイド受容体をブロックすることが腎保護効果につながる可能性が強く示唆された。
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