研究概要 |
昨年度までの研究で、我々はリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)遺伝子の欠損が生体内において炎症反応の調節を介して動脈硬化病変形成を促進し、肥満の増悪にも関与している可能性を見出した(Tanaka R et al.Biochem.Biophys.Res.Comaun.,378:851-6.2009)。当該年度は肥満の増悪に着目し、そのメカニズム解明を目指してin vitroの実験を行った。 まず、L-PGDS遺伝子欠損が培養非成熟脂肪細胞分画(stroma1-vascular fraction,SVF)の脂肪細胞への分化におよぼす影響について検討を行った。野生型マウスおよびL-PGDS遺伝子欠損マウスよりSVFを採取、培養し、インスリン・デキサメタゾン等の刺激によって脂肪細胞の分化を誘導した。Oil red 0陽性の分化した細胞数および単一細胞あたりの面積を比較したが、両群問に明らかな差は認められなかった。また、SVFにペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR)_γのリガンドであるトリグリタゾンを5日間添加し、脂肪細胞への分化を試みたところ、こちらも野生型およびL-PGDS遺伝子欠損マウスの間で細胞分化の割合および細胞肥大に明らかな差を認めなかった。脂肪細胞の分化にはPPAR_γが重要な役割を果たしており、L-PGDSにより生体内で産生されるPGJ_2はPPAR_γの強力な生体内リガンドであることがこれまでに報告されている。つまり、L-PGDS遺伝子の欠損により、PGJ_2の産生が低下し、脂肪細胞への分化を阻害した結果、肥大した脂肪細胞が増加して肥満を来している可能性があった。しかしながら、今回の結果ではL-PGDS遺伝子欠損による肥満の増悪は、少なくともPGJ_2の産生低下によるものではないと思われた。
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