研究概要 |
カニクイザルにエピネフリンを反復(Dayl, Day2)投与することにより、ヒトたこつぼ型心筋症に極めて類似した心不全モデルを作製することに成功した。エピネフリン投与中に心筋梗塞に似た心電図変化や様々な不整脈が認められ、突然死を呈するものも認められた。エピネフリン最終投与後24時間(Day3)で行った心臓超音波検査では、左心室基部は正常壁運動を示したのに対して、心尖部領域では著明な壁運動低下を求めた。1ヵ月後には正常マウスの80%程度にまで心機能(駆出率)は改善した。 心不全の治療に用いられるβ受容体遮断薬(メトプロロール)をDay3に投与すると、その後の駆出率改善が促進された。Day4において、左心室を基部・中部、心尖部に分けて取り出し、壁運動正常の基部領域と壁運動低下の心尖部領域からRNAを抽出し、遺伝子変化を調べた。マイクロアレイ法では、心尖部においてエピネフリンにて2倍以上発現が増加した遺伝子が約2000、0.5倍以下に低下した遺伝子が約500見つかった。基部に比べて心尖部ではエピネフリン投与によって発現が変動する遺伝子が多いこともわかった。脳性利尿ペプチドやオステオボンチンなどの心不全関連遺伝子、リアノジン受容体2などのカルシウムシグナル関連遺伝子、アンジオテンシノーゲンやアンジオテンシン受容体などのレニンアンジオテンシン系関連遺伝子、チトクロームCやミトコンドリア転写因子Aなどのミトコンドリア機能関連遺伝子等の発現がエピネフリンにより心尖部のみで大きく変動し、その一部はメトプロロール投与により、改善あるいは改善傾向を示した。また、エピネフリンで認められた心尖部領域の心筋障害は、メトプロロール投与にて改善した。このモデルはたこつぼ型心筋症あるいは心不全に対するβ受容体遮断薬療法の薬理機序を明らかにする上で重要なツールとなると考えられる。
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