胃・十二指腸アルカリ分泌におけるホスホジエステラーゼ(PDE)アイソザイムを含めた細胞内情報伝達系を明らかにし、またガス状メディエーターであるNO、H_2SやCOの局所性調節因子としての可能性を調べ、以下の知見を得た。 1、NO誘起胃アルカリ分泌にはcGMPと共にPDE1およびPDE5が関与することが判明した。NOR-3による反応はmethylene blueの前処置により、またPGE_2による反応はONO-8711の前処置により有意に抑制された。また、NOR-3および8-Br-cGMPによるアルカリ分泌反応はindomethacinおよびEP1拮抗薬であるONO-8711の前処置によっても有意に抑制された。これらの結果より、内因性NOはcGMPかつPDE1およびPDE5依存的なCOX活性化によりPGE_2を産生し、最終的にEP1受容体を介して胃アルカリ分泌を促進するものと推察された。 2、H_2S供与体であるNaHSは胃および十二指腸アルカリ分泌を増大させることが判明した。H_2Sによるアルカリ分泌の増大は、内因性PG、NOおよび知覚神経以外に、ATP感受性K^+チャネルとの関連性が推察された。一方、粘膜酸性化によるアルカリ分泌反応における内因性H_2Sの関与については胃と十二指腸で異なっており、後者におけるアルカリ分泌反応のみがCSE阻害薬によって有意に抑制されたことから、生理学的なアルカリ分泌におけるH_2Sの関与は十二指腸においてのみ該当するものと考えられた。 3、COドナーであるCORM-2は十二指腸アルカリ分泌を増大し、この作用には内因性のPGおよびCOからのCO_2生成を介したHCO_3^-供給の関与が示唆された。また、粘膜酸性化によるアルカリ分泌反応には内因性HO(ヘムオキシゲナーゼ)の関与も明らかとなり、HOは酸に対する十二指腸粘膜の恒常性維持において重要であることが推察された。
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