胃・十二指腸アルカリ分泌の局所性調節におけるガス状メディエーターの関与およびムスカリン(M)受容体サブタイプについて検討し、以下のような結果を得た。 1) H_2S供与体であるNaHSはラット胃・十二指腸アルカリ分泌を増大させ、この反応は内因性PG、NOおよび知覚神経によって仲介されていることが判明した。胃・十二指腸アルカリ分泌は粘膜酸性化によって増大するが、この過程は十二指腸においてのみ、H_2S生成酵素であるCSEの阻害薬によって有意に抑制されたことから、内因性H_2Sは十二指腸アルカリ分泌の生理学的な調節系に関与するものと推察された。 2) COドナーであるCORM-2はラット胃・十二指腸アルカリ分泌を増大し、この作用はインドメタシンおよびアセタゾラミドにより有意に抑制された。粘膜酸性化によるアルカリ分泌反応も、十二指腸においてのみ、CO生成酵素阻害薬(SnPP)により抑制され、酸誘起粘膜損傷もSnPPの前処置により増悪した。これらの結果より、十二指腸アルカリ分泌は内因性HO(ヘムオキシゲナーゼ)によって、少なくとも一部調節されており、HO由来COはアルカリ分泌促進を介して十二指腸粘膜の恒常性維持に寄与することが推察された。 3) カルバコール(CCh)はマウス摘出十二指腸においてアルカリ分泌を促進し、この作用はアトロピン前処置で抑制された。CChによる反応はM2およびM5ノックアウト(KO)動物では野生型(WT)動物と同様に観察されたが、M1、M3およびM4KO動物で著明な減少が認められた。M4KO動物における抑制はソマトスタチンSST2受容体拮抗薬の前処置により完全に拮抗された。また、外因性ソマトスタチン誘導体はCCh誘起アルカリ分泌を有意に抑制した。更に、CChは組織内ソマトスタチン遊離を抑制し、この反応はM4KO動物では消失した。これらの結果より、CChのアルカリ分泌反応はM1、M3およびM4受容体によって仲介されており、M4の活性化はD細胞からのソマトスタチソ遊離を抑制することにより、間接的にアルカリ今泌を促准するものと推察された。
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