プロラクチン(PRL)分子の多様性の研究において、PRLがペプチダーゼによって切断されて生じる16kDaPRLN端フラグメントが最近注目されている。全長PRLが血管内皮細胞増殖抑制に作用するのに対し、16K PRLは血管内皮細胞増殖を抑制する。本研究では、免疫系における16Kフラグメントの作用、分泌調節、受容体の構造、細胞内情報伝達機構を明らかにし、この生理活性ペプチドが免疫不全症や自己免疫疾患に対する薬物療法の標的と成るかどうかを検討する。 I.具体的内容 1)16Kプロラクチン(16K PRL)フラグメント特異抗体の作製 前年度疎水性が強く合成出来なかったtilted peptide部の合成が出来た。また、PRLのN端、C端ペプチドを合成してウサギアルブミンとconjugateを作製、ウサギに免疫してヒトPRLに対するN端、C端抗体を作製した。抗体は感度、特異性とも満足出来るものが得られた。また、大腸菌を用いてGST-16K PRL融合蛋白を作製出来た。 2)16K PRLの存在の検討 ヒトおよびラットPRLを酸性条件下(pH5)にてcathepsin Dと反応させ、Western blotで確認した。ヒトPRLはcathepsin D消化に抵抗性であったが、ラットPRLは部分消化され、16K PRLが生成した。また、脳下垂体由来PRLのwestern blotにおいて通常でも少量の16K PRLの存在が確認された。 3)培養ラット海馬神経細胞を用いた細胞毒性試験(WSTアッセイ、LDHアッセイ)において、tilted PRLは容量依存性に細胞毒性を示した。GST-16K PRL融合蛋白も同様に細胞毒性を示した。 II.意義、重要性 今回ヒトPRLのtilted peptideが合成出来、その細胞毒性が明らかになった。16K PRLには全長PRLと全く反対の神経細胞増殖抑制作用が見られた。このメカニズムは免疫系、神経系の病態に関与している可能性があり、今後検討すべき重要な課題と考えられる。
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