ヒト癌患者は末期において半数がカヘキシーを呈する。カヘキシーは治療の妨げとなることは勿論のこと、患者のQOLを深刻に低下させるため、治療にむけた遺伝子レベルの解明が重要である。従来、炎症性サイトカインが原因物質である報告がなされてきたが、不明な点が多い。遺伝子レベルの解明には、良い自然発症動物モデルが必須である。私は、遺伝子レベルで癌細胞発生からカヘキシー発症まで再現する動物モデルの開発に従事し、ほぼ100%の率でカヘキシー再現が可能な多形型横紋筋肉腫(RMS)自家発症型の遺伝子改変モデル動物を開発し、発症機序の解明の研究を進めてきた。平成21年度は、平成20年度に限定したカヘキシー誘導に関連する複数遺伝子をの発現コンストラクトを作製した。それぞれを、本来はカヘキシーを誘発しない腫瘍株に導入した新たな株を作製中である。また、Tumor generating cell(または腫瘍幹細胞)については、悪疫質誘発腫瘍塊より細胞株を樹立し、細胞数100個中に高頻度に存在することを証明した。さらに、同じ遺伝子型を有しながら、カヘキシーを誘発しない腫瘍塊では癌型K-ras遺伝子の発現量が半減(RNAレベル)していることを見出した。このことは、カヘキシー誘発関連遺伝子の発現がRasシグナル伝達経路の活性強度に依存する可能性を強く示唆していると結論される。生後0週の幼弱動物においても、p53-/-の遺伝子背景と癌型K-rasの発現によって、誘導後約4週間でRMSを発生することを証明した。興味深いことに、p53ヘテロ接合体の遺伝背景においてヘテロ接合性喪失(LOH)によってRMSを発症する頻度は、アダルト動物におけるその頻度に比べ、非常に低い値を示した。したがって、RMS発症は、遺伝子型に規定されていること、ヒトと同様に動物においてもRMS発症がAgeに依存性があることが示唆された。
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