研究概要 |
がん性カヘキシー発症は腫瘍側の因子と宿主側の因子の相互作用の結果である。本研究では、多形型横紋筋肉腫(RMS)自家がん発症型の遺伝子改変モデル動物を用いた実験系を開発し、がん性カヘキシーにおける腫瘍因子を同定することを主要目的の一つとしてきた。カヘキシーを発症する個体の腫瘍より、カヘキシーを誘発する腫瘍株(RMS3)と誘発しない腫瘍株(RMS6)を樹立した。それぞれに由来するRMS腫瘍塊の遺伝子発現プロファイルの解析結果、RMS3由来腫瘍塊に特異的に発現亢進を認める分泌性因子をコードする遺伝子としてインターロイキン6(IL-6)の他、3つのペプチド性因子をコードする遺伝子(A,B,C)を見い出した。それぞれを過剰発現するRMS6細胞株を樹立し、正常動物に移植した結果、IL-6遺伝子または遺伝子Aの過剰発現がRMS6にカヘキシー誘導能を付与することを見出した。さらにIL-6遺伝子過剰発現RMS6由来腫瘍では遺伝子Aの発現亢進を、他方、遺伝子A過剰発現RMS6由来腫瘍ではIL-6遺伝子の発現亢進を証明し、活性化Rasによって腫瘍化した細胞が悪性化しカヘキシー誘導能を有するRMS腫瘍塊を形成する際、IL-6シグナルと遺伝子Aシグナルのシナジー効果が重要であることを示唆した。また、悪性黒色腫由来B16F10に遺伝子Aを強制発現してもB16F10はカヘキシー誘導能を獲得できなかったことから、そのシナジー効果は細胞系譜特異的であることを示唆した。さらに、本系では、カヘキシー発症動物の血中IL-6濃度に異常がないこと、同動物への抗IL-6レセプター抗体投与はカヘキシー病態を全く抑制しないことを示し、IL-6は病態形成プロセスには重要であるが病態維持には関与しないことを証明した。遺伝子Aの重要性を調べるため、遺伝子A受容体ノックアウト動物にRMS3を移植した動物を解析中である。
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