本研究計画はCSR SHM制御の分子機構の解明を目指し、その必須分子であるAIDの発現調節並びにSHM導入に関わるDNA修復系のメカニズムを明らかにする事を目的にする。AIDの発現調節機構を明らかにする為に、AID遺伝子領域のゲノム塩基配列を、ヒト、マウス等異種間で比較し、exon以外の良く保存された領域を4カ所同定した。その4カ所のDNA断片をPCR法を用いてクローニングし、Luciferaseをレポーターとするプラスミドを構築した。それらを、サイトカイン刺激依存的に60%を超える効率でクラススイッチ組み換えを起こすマウスBリンパ球細胞株CH12F3-2細胞に一過性に導入しLuciferase解析を網羅的に行なった。その結果、以下の知見を得た1)AID遺伝子プロモーター領域は、B細胞特異性やサイトカイン刺激による誘導性が弱い。2)イントロンに強力なB細胞特異的なファクターの結合配列をもつエンハンサーがある。3)また、イントロンのB細胞特異的エンハンサーの両側に強力な抑制領域がある。4)上流のintergenic regionに良く保存された領域があり、サイトカイン刺激依存的にAIDプロモーターを活性化する。5)前述のイントロンの抑制配列の効果は、上流のサイトカイン刺激依存的なエンハンサーによっても完全には解除されず、拮抗して働く。 これらの発見により、DNA改変活性を持ち発がんにも関与するAID蛋白質の発現制御が2種類のエンハンサー群、即ち、細胞系列特異的及びサイトカイン刺激依存的エンハンサーと、それらに拮抗するサイレンサーによって厳密に制御されている事が強く示唆された。この知見は、AIDが、何故活性化B細胞特異的に強発現されるのか、また、低レベルでの異所性発現がピロリ菌等の外因性の病原体に関連して引き起こされて行くのかを理解する為のモデルを提供する。
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