研究概要 |
SAPドメインを有する転写因子、Myocardin (Mycd) family (Mycd及びMRTF-A/B)は転写因子serum response factor (SRF)の補助因子として働く。Mycdが恒常的に核局在するのに対し、MRTF-A/Bは細胞質に存在し、Rhoシグナルの活性化に依存して一過性に核に集積する。昨年度までの研究で、MycdのN末端に存在するbasic amino acid-rich domain (NB, 98-103aa)が核移行シグナルとして働き、Mycd・importin α/β1三量体を形成し核移行することを明らかにした(NBがimportin α/β1の結合部位)。また、MRTF-A/Bの核移行にもNBが必要で、Mycdと同様にNBを結合部位としてimportin α/β1と三量体を形成するが、Mycdと比較してimportin α/β1に対する親和性は極めて低い。また、血管平滑筋細胞内で発現しているimportin α subtypeを解析した結果、importin α1, α2, α4が主要なimportin α subtypeであること及びMyedはimportin α1と最も強い親和性を示すことを見出した。さらに、G-actinに対して高い親和性を持つMRTF-A/BではG-actin存在下ではこの三量体形成が著明に阻害されるが、G-actinに対する親和性が極めて弱いMycdではこの阻害効果は全く認められない。これら一連の解析から、Mycd familyの細胞内局在の相違がimportin α/β1に対する親和性に依存することとMRTF-A/Bの核集積がactin dynamicsの影響を受けるのはG-actinによるMRTF-A/B・importin α/β1三量体形成阻害によることを明らかにした。今年度の研究では、血管平滑筋細胞におけるMycdの核移行に関わるimportin α1/β1の発現が血管平滑筋細胞の形質依存性に制御されることを見出した。即ち、分化型平滑筋細胞ではMycd, SRF及び平滑筋マーカーの発現が増強されるのに伴い、importin α1/β1の発現も亢進する。逆に、脱分化平滑筋細胞ではMycd、SRF及び平滑筋マーカー遺伝子の発現低下を来たすが、これらと連動してimportin α1/β1の発現も低下する。これは核内移行制御因子の発現が血管平滑筋細胞の形質に依存して変化し、血管平滑筋細胞分化と密接に関わることを示唆している。この知見は、細胞分化研究に新為な視点を与え、今後、大きく発展する可能性がある。
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