研究概要 |
GTP結合型Rasに存在する、相互変換可能な2つの立体構造(state 1:不活性型とstate 2:活性型)のうち、分子表面にポケットを有することが確認されているstate 1構造を分子標的とした。このstate 1のポケットにエネルギー的に安定に結合することにより活性型(state 2)への移行を阻害する可能性のある化合物が、Rasの機能阻害剤になる可能性に着目した。State 1の構造情報に基づき、ポケットに結合する可能性が高い低分子量有機化合物をバーチャルライブラリーから、MM+PBSA法を利用したドッキングシミュレーションとコンピュータ能動学習法を利用して選抜したのち、生化学的・分子生物学的手法を駆使した化合物の活性評価試験を行ったところ担癌モデル動物で、市販の抗癌剤と同等もしくはより強い活性を示すヒット化合物が得られた。これらは母核構造上3種類のカテゴリー(A,BならびにC群)に分類された。20種類の癌細胞株を用いた評価試験において、A群、B群の化合物は、Rasの活性型変異を有する癌細胞株に強い癌化形質抑制作用を示すことから、これらの化合物のRas特異性が確認された。また、化合物存在下でのH-Rasの多次元NMRによって、state 1のポケットに存在する2つのアミノ酸残基とA群の化合物との直接結合が確認された。A群の化合物については、1次元NMR(<31>^P-NMR)によって、state 1安定化作用が確認された。
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