研究課題
スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は血液細胞・血管内皮細胞が産生する生理活性脂質であり、血漿中に存在する。G蛋白共役型受容体の複数のサブタイブを介して多彩な生物活性を発揮する。我々自身を含めたこれまでの国内外の研究により、S1P_1受容体が低分子量G蛋白Rac活性化を介して細胞遊走促進、がん血管新生促進を仲介することが明らかにされた。一方、我々の同定したS1P_2受容体は、S1P_1とは対照的にRac活性化を抑制し、細胞遊走を抑制することをこれまで明らかにしてきた。本研究では、我々が作出したS1P_2ノックアウトマウスと同腹野生型マウスを用い、以下の知見が明らかとなった。(1)LLCならびにB16BL6腫瘍細胞を皮下移植し、腫瘍の成長と血管新生を比較検討したところ、KOマウスにおいて血管新生と腫瘍の増大がともに促進されることを見出した。さらに、KOマウスの腫瘍血管は、周皮細胞・中膜平滑筋細胞の集積が野生型に比較して有意に促進されていることがNG2,desminの免疫組織染色により明らかとなった。また、FITC-dextran注入により実際血流のある機能している腫瘍血管がKOマウスにおいて増加していること、腫瘍細胞の増殖も有意に促進されていることが分かった。(2)皮下注入マトリゲルにおける血管新生を比較検討したところ、KOマウスにおいて有意に促進されていた。(3)腫瘍組織における数種類の血管新生関連遺伝子の発現がKOマウスにおいて促進されていた。(4)肺循環内皮細胞をMACS法により分離、培養し、そのRac活性化、細胞遊走、管腔形成能が亢進していることを見出した。以上から、担がん宿主内皮細胞のS1P_2受容体は腫瘍血管新生を負に制御することを明らかにした。
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