研究課題
スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、血液細胞・血管内皮細胞から産生され、血漿中に存在する生理活性リゾリン脂質メディエーターであり、我々を含む国内外の研究者により、G蛋白共役型受容体の5つのサブタイプ(S1P_1~S1P_5)を介して多彩な生理活性を発揮することが明らかとなっている。S1Pの病態生理学的役割を明らかにする目的で、我々がかつて血管壁cDNAライブラリーから新規オーファン受容体としてクローニングし、後にそのリガンドS1Pを同定したS1P_2受容体のノックアウト(KO)マウス、および、S1P_2アリルへのβガラクトシダーゼ(LacZ)ノックインマウスを作出した。S1P2受容体は、血管内皮・平滑筋細胞、骨髄細胞、および中枢神経に発現していた。ルイス肺がん細胞(LLC)およびB16メラノーマ細胞の皮下移植後、腫瘍の増大と血管新生は、S1P_2 KOマウスにおいて同腹野生型(WT)に比し顕著に促進を認め、腫瘍組織の血管新生促進因子発現、MMP活性も上昇していた。肺微小血管内皮細胞の初代培養系における検討では、血管内皮細胞の増殖能・管腔形成能がKOマウス由来内皮細胞において亢進し、Akt活性・Rac活性の上昇を伴っていた。さらに、腫瘍間質に浸潤する骨髄由来細胞はKOマウスの腫瘍において増加を認め、KO/WT間の骨髄移植実験から、KOマウスの骨髄由来細胞がWTマウス皮下に移植したがん血管新生・腫瘍増大を促進し、CD11b陽性骨髄由来細胞に発現するS1P_2受容体が骨髄から腫瘍への動員と腫瘍血管新生を抑制性に制御することが明らかとなった。以上から、宿主の血管内皮・骨髄系細胞双方に発現するS1P_2受容体が、がん血管新生・がん進展を抑制性に制御することを世界に先駆けて明らかにした。すでに我々自身が見出している知見(腫瘍細胞に発現するS1P_2受容体が腫瘍細胞の遊走・浸潤を抑制性に制御すること)と併せ、本研究は、S1P_2受容体選択的刺激薬が新たながん血管新生阻害分子標的治療薬の有望な候補であることを明らかにした。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (7件)
Am J Cancer Res.
巻: 1 ページ: 460-481
Pharmaceuticals.
巻: 1 ページ: 117-137
World J Biol Chem.
巻: 1 ページ: 298-306
J Clin Invest.
巻: 120 ページ: 3979-3995
Eur J Pharmacol.
巻: 634 ページ: 121-131
Cancer Research.
巻: 70 ページ: 772-81
Cardiovascular Research.
巻: 85 ページ: 484-93